"合意形成"を大事にしすぎていない?
このメモは?
とある現場で「合意形成を大事にするあまり進みが遅くない?」みたいな声をチームにかけようとマネージャーが思っていたので、それに対して書いたことです。
まずは観察したことを伝える
自分がアジャイルコーチだったら、まず観測できたことを伝えます。
たとえば「みんなのコミュニケーションが、合意形成を大事にしているように私には見える」 といった感じです。
もし"見え方"を最初に伝えることが場に大きな影響を与えるとすればもう少しオープンに聞いたりもします。
たとえば「みんなはこの場の会話でなにを大事にしているの?」などです。
その上で「自分がどう見えているか話してもいい?」と聞いたりしていきます。
取り返しがつくことはまずやってみる
「この実験で大きく破壊的なことはあるか?」をよく話します。
たとえば、"大きく破壊的なこと"とは実験そのものが誰かに大きな迷惑がかかる可能性が高いとか、元に戻そうとした時に多くの時間やお金がかかるとか、そもそも戻せないとかといったことです。
私は「取り返せないようなこと以外」は大きな問題がないなら、まずやってみることをオススメしています。
なぜなら、どのやり方にしても単独でのメリット、デメリット(というか特徴)があります。
そしてそれが今の自分たちにとってどのように作用して、どのような影響を生み出すかは多くの場合、誰にもわからないからです。それであれば、サッと「これをやるとどんな嬉しいことが起きそう?」と話し合ってそれを計測、検査することにして取り組んでみれば良いと思っています。
具体的なやり方の1つとして「5本指(Five Finger ファイブフィンガー )」による意思表明があります。 「XXという実験を次の1週間、取り組んでみよう」に対して5本指で自分の意思を表明します。
5は「大賛成。自分が率先してやるよ」、4は「賛成。自分も一緒にやるよ」、3は「いいんじゃない。チームがやるなら私もやるよ、2は「ちょっと気になる点があるので少しだけ話したい。その上でやる」、1は「やばいリスクがあるから今のままやるのは反対」といった感じです。
合意形成を大事にしすぎるマインドセット
合意形成を大事にしすぎるマインドセットとして次のような考えがあるかもしれません。
「(自分が知らないけど)きっと絶対うまくいく正解があるはず」
「うまくいかなくて、手戻りを起こしたくない」
「合意したことを変更してはいけない」
しかし、前述したように、最初から確実にうまくいく方法なんてほとんどありません。それを見つけるためには実際に自分たちでやってなにが起きるか、感じるかを体験するしかないんですね(スクラムでいう経験主義)。そのために実験しようということです。 もう1つ別のマインドセットとして「よくわかっていないことをするのが不安」というのがあるかもしれません。ただこれも少なくとも言い出している人がいるので、その人がやろうとすることに一度乗っかってみてもいいでしょうし、(たとえばアジャイルコーチなどの有識者がいるなら)教えてもらいながら一緒にやってみるのも良いと思います。
(子供の頃に)自転車を乗る時に最初から全部教えてもらったりしないでしょ?あれと一緒です(雑な言い方ですが)。
余談ですが、マネージャーは、このような"立ち止まってしまう"マインドセットから解放するための「実験できる環境」をどう作るかが重要になってきます。
もちろん目標に到達することを望みながら、かといって、「進捗」を求めすぎたり、 「正解」があるような言動をしてしまうと、逆に動きが遅くなってしまうかもしれません。
あるマネージャーは毎回チームに「今週、われわれはなにを学んだの?どんなことがわかった?どんなことを次に学ぶ必要があると思う?」と聞いていました(このマネージャーも最初はむっちゃ進捗を気にしていましたが)。
アジャイルコーチもそれほどわかっていない
私もアジャイルコーチとして「こうやってみたらどう?」と言いますが、必ずしもうまくいくと確信しているわけではありません。
もちろん過去の様々な経験やアジャイルやチーム活動、プロダクトづくりに関する知識、経験の中はあります。それでも言えることは「おそらく似たような状況にあったチームで、こんなことをやってみたらこんな風になったよ」ということです。
それにいったん乗っかって実際にやってみると(今の自分たちに)「ピッタリはまった!」「部分的にはまった」「ちょっとしっくりこなかった」というのがわかるわけです。そして、その結果を見ながら、次の手を考えればいいだけの話です。
これは「何も考えずにとりあえずやる」と言っているわけではなく「今、わかることは考えよう。そして破壊的なことが起きないかはみよう。それがないなら経験主義を最大限に活用しよう」ということです。
おまけ:Scrumの効用
おまけですが、「実験することをサッと合意して経験主義を最大限に生かす」ことが上手くないチームが(中途半端に)Scrumに取り組むと 「ミーティングが多い」とか「自分の自由にできない」といった声が出てきたりします。
Scrumはむしろ最低限のミーティングで自分たちの自主性を活かせるやり方だと考えています。
最初に「わかっていることだけ」を計画する
スプリントプランニングではせいぜい1、2週間のことに集中する
1週間という短い期間で実験を推奨する
短いスプリントだからこそ、小さなリスクで実験できる
進捗ではなく「学んだこと」を重視する
スプリントレビューやスプリントレトロスペクティブ
その結果の経験を生かしていく
つまり、Scrumに真剣に取り組むことが、結果的に「わかること」を増やし、「価値を早く生み出すこと」になり得るのではないでしょうか。